【学術Topic】グアーガム分解物はがん悪液質モデルマウスの筋萎縮を抑制
グアーガム分解物が、がん悪液質モデルマウスの筋萎縮を抑制することを明らかにしました。
本内容を京都府⽴医科⼤学、太陽化学株式会社らによる研究グループにより、学術誌「Cancer Science」に発表されています。
研究方法
7 週齢のマウスを グアーガム分解物摂取群(fiber rich diet; FR 群)および食物繊維非摂取群(fiber free diet; FF群)に分けて 2 週間飼育した後、がん細胞(C26)を皮下移植したがん悪液質モデル群(C26-FR、C26-FF)、生理食塩水を皮下移植したコントロール群(CT-FR、CT-FF)の 4 群を作成しました。体重、腫瘍サイズ、食餌摂取量の推移を測定し、3 週間後に骨格筋重量、骨格筋の筋萎縮関連遺伝⼦の発現、腸内細菌叢、糞中短鎖脂肪酸※1、腸管粘膜バリア機能※2、炎症性サイトカイン※3 などを評価しました。
※1 短鎖脂肪酸
酢酸、プロピオン酸、酪酸など、食物繊維やオリゴ糖などを腸内細菌が発酵してつくる有機酸。消化管のエネルギー源となり、バリア機能を強化するなど、腸内環境の維持に重要な役割を果たす。また、全身のエネルギー代謝の調節、炎症抑制、免疫調節など、さまざまな機能を有する。
※2 粘膜バリア
数多くの腸内細菌や外界の微生物と接する腸管には、病原菌の侵入や常在菌に対する過剰な免疫反応を防ぐためにさまざまな防御機構があり、粘膜バリアもその 1 つ。腸管の上皮細胞はムチンという粘性のある糖タンパク質を分泌し、細胞表層を覆うことで物理的に病原微生物や毒素の侵入を防いでいる。
※3 炎症性サイトカイン
主に免疫細胞から分泌される、炎症症状を引き起こす低分⼦のタンパク質の総称。ウイルスなどの病原微生物を排除するため、免疫細胞の増殖、分化、活性化、感染部位への誘引などを促す。一方で、がん悪液質においては、がん組織から過剰な炎症性サイトカインが恒常的に分泌され、全身性の炎症が慢性的に継続することにより、代謝異常や筋肉の萎縮などを招くことが知られている。
主な研究結果
C26-FR 群では C26-FF 群でみられた顕著な体重および骨格筋の減少が抑制されました。また、その機序として、C26-FR 群における骨格筋の筋萎縮関連遺伝⼦の発現亢進抑制、腸内有用菌※4 の増加、糞中短鎖脂肪酸の増加、腸管粘膜バリア機能の維持、病原菌の侵入抑制、LBP※5 の上昇抑制、炎症性サイトカインの上昇抑制などが観察されました。
※4 腸内有用菌
いわゆる善玉菌。短鎖脂肪酸やビタミンなどの有用代謝産物を産生したり、免疫を賦活したりするなど、宿主の健康に寄与する腸内細菌。本研究では PHGG の摂取により有用菌として知られ、粘膜バリア機能増強作用も示されている Bifidobacterium や Akkermansia などの有用菌の増加が確認された。
※5 LBP
リポ多糖結合タンパク質(LBP: LPS Binding Protein)。LPS(Lipopolysaccharide)によって生じる自然免疫応答に関与するタンパク質。LPS は⼤腸菌やサルモネラ菌などグラム陰性菌の外膜に存在する糖脂質で、内毒素として作用し、体内に入ると様々な毒性を示す。通常は腸管バリア機能が LPS の体内への侵入を防いでいる。LBP の上昇は体内への LPS の侵入を示し、すなわち腸管バリア機能の破綻を示唆する。
発表雑誌
雑誌名:「Cancer Science」
論⽂名:Water-soluble dietary fiber alleviates cancer-induced muscle wasting through changes in gut microenvironment in mice
著者:Sakakida, Tomoki; Ishikawa, Takeshi; Doi, Toshifumi; Morita, Ryuichi; Endo, Yuki; Matsumura, Shinya; Ota, Takayuki; Yoshida, Juichiro; Hirai, Yasuko; Mizushima, Katsura;
Higashimura, Yasuki; Inoue, Ken; Okayama, Tetsuya; Uchiyama, Kazuhiko; Takagi, Tomohisa; Abe, Aya; Inoue, Ryo; Itoh, Yoshito; Naito, Yuji
掲載⽇:2022 年 2 月 24 ⽇